比較的富裕層が多いとされるウェストチェスターにおいて、その中でも全米一収入が多い街として有名なのがScarsdale(スカースデール)です。CNN Moneyでは2013年のTop-earning towns第一位にスカースデールを挙げています。人口1.7万人で、中間所得が$291,542ということですからさすがですね。
そんなスカースデールですが、ユダヤ系の方が多いことで有名で、シナゴーク(ユダヤ教会)もあちらこちらに見られます。スカースデールではありませんが、ニューヨークが生んだ富裕層といえば、ホワイトプレーンズで生まれドブズフェリーで育ったフェイスブックの創業者マークザッガーバーグさんもユダヤ教徒のお子さんですね。
日本にいる時は第二次大戦のホロコーストについての暗い歴史ばかり知識として植え付けられてきましたが、ウェストチェスターに住むということはユダヤの方々ともご近所になるということになりますね。今回ご紹介する『命のビザを繋いだ男―小辻節三とユダヤ難民』では、そのホロコーストの前後でユダヤの方々を救った日本人の活躍を通じて、その当時、日本がユダヤの方々とどのように関係していたかを知ることができます。
命のビザといえば杉原 千畝さんが有名です。リトアニアの日本領事館でナチスの迫害から逃れてきた6000人ものユダヤ難民に対して人道的な観点から独自の判断でビザを発行し日本に避難させたのです。ところが俳優でこの本の著者である山田純大さんはこのビザの発行をうけた大量のユダヤ人が日本にたどり着いた時に誰がサポートをしたのかに関心を持ち、調べていくと歴史に埋もれた英雄 小辻節三さんにたどり着きます。
小辻節三さんは神道の家に産まれながらも、キリスト教に改宗し、ついには戦後のイスラエルでユダヤ教徒に認定されるという特異な経歴の持ち主です。著者は小辻さんの娘さんたちと面会し、資料を集めて小辻さんが戦時中、ユダヤの方々をどのように日本で受け入れ、サポートしたのかを明らかにしつつ、ついにはご自身でイスラエルに飛び、小辻さんと親交が深かった方々のご子息に会って当時の様子を訪ねて回ります。
第二次大戦中といえば、日本はナチス率いるドイツの同盟国です。ナチスからはユダヤ迫害の強烈なプレッシャーがかけられ小辻さんも拷問をうけることになりますが、過去の人脈によって救出されます。神戸で受け入れた6000人のユダヤ難民はそれぞれ上海やアメリカなど第二の渡航先に移動し日本での最悪の事態を免れます。
戦後、小辻さんは日本人として初のユダヤ教徒入りを果たし世界中を驚かせたようです。改宗の時を含め数回訪れたイスラエルでは、戦時下において小辻さんに救出されたユダヤの方々によって熱烈な歓迎をうけたことが綴られ誇らしい気持ちになります。ユダヤ教に改宗したのち晩年にはニューヨーク ブルックリンのシナゴークに滞在されていたようです。The Japanese Convert
小辻さんというユダヤ難民の英雄とその歴史背景を学ぶためにも日本から取り寄せる価値のある本ですね。